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MTECジャーナル 第20号(2008年12月)

過去に発行した論文誌「MTECジャーナル」をご紹介いたします。

所属は当時

著者 中村 亘・野澤 亘・高橋 明彦(東京大学)
タイトル 確率微分効用に基づく金利の期間構造モデルについて
要旨

金利の期間構造はこれまで金融工学の分野において詳しく分析されてきたが, イールドカーブとマクロ経済の構造変数との関係は, その重要性にも関わらず, 十分に解明されなかった. それに対し, 経済学の分野では主に時間分割型効用(time-separable utility)に基づく均衡モデルを使ってイールド カーブのマクロ経済学的分析が行われてきたが, モデルが非現実的であるため, 実際のイールドカーブの形状を説明するには不十分であった. そこで, 本論文では確率微分効用(stochastic differential utility)を導入し, 現実のイールド カーブをより自然に再現できる連続時間の金利の期間構造モデルを構築した. これを用いて, イールド カーブに対する代表的個人の効用関数の形状やマクロ構造変数, とくに期待物価上昇率の影響を分析した

著者 徳永 俊史(武蔵大学)
タイトル モメンタム/コントラリアン戦略:サーベイ
要旨

論文前半では, 実証ファイナンスの世界で 20 年以上議論が続いているモメンタム/コントラリアン戦略の有効性について, 議論が長く続いている 3つの視点 (リスクファクター, 保有期間リターンの計測方法, 行動バイアス)と最近注目が集まっている流動性の視点からサーベイする. 米国では, 90年代後半に長期リターンリバーサル効果の説明に一応の結論がでたものの, 現在も短期モメンタム効果の原因を完全に解明できていない. 日本では, 短期から長期までリターンリバーサル効果が支配的であるといわれているが, これまでの分析によると 1 か月付近のごく短期間のしかも低流動性銘柄にのみリバーサル効果がみられるにすぎず, 米国のようなモメンタム効果は観察されない. しかし, 論文後半では, 業種ポートフォリオを使ったモメンタム戦略を実行すると統計的に有意な超過リターンが観察されることを報告する. 最後に, 個別銘柄間のリード・ラグ関係の構造を解明することがこのような逆転現象を説明する手がかりの 1 つであることを示す.

著者 枇々木 規雄(慶應義塾大学)
タイトル 家計のための多期間最適資産形成モデル
要旨

世帯の家計は, インフレに伴う実質資産価値の減少リスク, 世帯主の死亡や疾病に伴う収入減少リスク, 住宅の火災による損失リスクなど様々なリスクにさらされている. 世帯の家族構成, 収入・支出, 資産・負債や住宅購入, 子供の教育, 退職後の生計などの将来に対する希望や目標を参考にして, 様々なリスクを回避し, 安定して資産形成を行うための多期間最適化モデルについて議論する. 枇々木ら (2005, 2006, 2007) の研究成果をもとにして, 家計のための最適化モデルの構築方法をまとめるとともに, いくつかの点について修正・追加をし, シミュレーション型多期間最適化モデルによる定式化を示す. より現実的な設定のもとで仮想的な世帯に対する数値分析を行う.

著者 森脇 成彦(MTEC)・宮原 孝夫(名古屋市立大学)
タイトル MEMMに基づいた幾何安定過程オプション価格モデルの実証分析
要旨

ブラック・ショールズモデルはアカデミック・実務で広く知られたモデルであり,その利点と共にいくつかの問題点も認識されている.例えば,モデル設定上,収益率分布に非対称性やファットテイルを仮定することができない.これらの問題に対する 1 つの答えとして,価格過程のモデルとしての確率過程を,幾何ブラウン運動からより広いクラスの確率過程に広げることが試みられている.本稿で扱うレヴィ過程に基づくモデル設定もその 1つである.一般に,レヴィ過程に基づくモデルは非完備市場となり,同値マルチンゲール測度は一意には定まらない.したがって,何らかの特定化が必要となる.そのための方法・測度がいくつか提案されており,Miyahara (1996)で提唱された Minimal Entropy Martingale Measure(MEMM)もその 1 つである.本稿は,この MEMM に基づいた幾何レヴィ過程モデル([GLP & MEMM] モデル)の有効性について実証的観点から検証を行った.

著者 小西 健史(MTEC)
タイトル 株主資本コストと期待リターンの関係
要旨

ファイナンスの領域でしばしば利用される株主資本コストについて, 将来リターンに対する説明力の観点から, Fama and French (1997) により提案された条件付 3ファクター・モデルを用いて推定した株主資本コスト , Ohlson (1995) の残余利益モデルに基づくインプライド 株主資本コスト , Ohlson and Juettner-Nauroth (2005) モデルによるインプライド 株主資本コストの 3 種類を取り上げ, 日本の株式市場におけるそれらの精度を比較, 検証した. その結果, 条件付 Fama-French 3ファクター・モデルによる株主資本コストと将来リターンとの間には計測期間によらず統計的に有意な正の相関があることが確認された. その一方で比較的短期の 1ヶ月や 3ヶ月の将来リターンに対しては, 残余利益モデルによるインプライド 株主資本コストにより強い相関が確認された. この結果は, Fama-French 3ファクターを構成する SMBファクター, HMLファクターが比較的長期の将来の経済動向に関する情報を織り込んでいるのに対して, 残余利益モデルは, むしろ直近の株価情報など短期の情報を織り込んでいることを示唆している.

著者 佐藤 賢一(MTEC)
タイトル 円金利市場のリスクプレミアムと超過リターン
要旨

本稿では, 円金利市場のリスクプレミアムに着目し, 債券の超過リターンとの関係について検討した. リスクプレミアムを定量化する手法として, Cochrane and Piazzesi (2005) が示した return-forecasting factor と, Dynamic Term Structure Modelの 2つを検討し, 超過リターンの予測可能性について実証分析を行った. どちらの手法についても, インサンプルでは, モデルで推定した期待超過リターンは実際の超過リターンに対して説明力をもつという結果であった. また, return-forecasting factorについては, 米国市場を対象にした Cochrane and Piazzesi (2005)とほぼ同じ実証結果が得られた. 一方で, モデルパラメータの推定値はサンプルに用いた期間で大きく異なり, 超過リターンの予測に応用する際の課題を示す結果であった.